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5.排水基準項目「平成8年2月 水質調査の基礎知識(近畿地方整備局近畿技術事務所)より抜粋」
生活環境に係る排水基準で指定されている項目のうち、 生活環境項目と富栄養化関連項目で解説した項目を除いたもので、 健康項目ほどではないが有害性が認められ、 かつ工場排水などに比較的普通に含まれている成分です。 1)フェノール類(phenol) フェノール類とは、芳香族化合物(ベンゼン環を持つ化合物)の ベンゼン環の水素がOH基で置換された化合物の総称で、 水質汚濁に関連するものとしては、フェノール(石炭酸 C6H5OH)、 クレゾール、ニトロフェノールなどがあります。 水中にフェノール類がごく微量でも含まれていると、 塩素処理の際にクロロフェノール類を生成し、 水に著しい異臭味をつけるので水道用水源にとって厄介な問題となります。 また、毒性の点からも魚類や微生物、下水処理場の生物処理などに悪影響を与えます。 人体にとっても有害ですが、中毒を起こすほどの濃度のものは 味覚上とても耐えられないので、人間に対する毒性が問題になることはあまりありません。 フェノール類は天然水に含まれることはなく、 化学工場およびガス製造工場排水、病院、研究施設の排水、 アスファルト舗装道路の洗浄水(雨水排水)、防腐・防錆剤などが汚染源となります。 2)銅(copper:Cu) 銅は、地表水はもとより地下水や動植物の体内など自然界に広く分布しており、 汚染のない河川水にも1μg/l程度は含まれています。 生物にとって必須の元素の一つですが、連続して大量に摂取すると慢性中毒を起こします。 しかし、水中の銅が原因となって直接人体に被害を与えた例はまだありません。 わが国で銅による水質汚染が問題になった例としては、 足尾銅山の廃水によって渡良瀬川が汚染され、 水稲の生育阻害などの著しい被害を生じたいわゆる足尾銅山鉱毒事件があげられます。 水中への人為的な供給源としては、鉱山排水の他に 金属関係の工場排水や大気粉塵からの溶出などがあります。 また、銅は下等生物に対しては毒性が強いので、 富栄養化した貯水池などで殺藻剤として硫酸銅が使用されることがありますが、 漁業に無関係のところに限られます。 3)亜鉛(zinc:Zn) 亜鉛は銅と同様に自然界に比較的広く分布する金属で、 自然水中に1〜10μg/l程度含まれ、50��/lも検出された例もあります。 亜鉛もまた生体必須元素の一つで、欠乏すると発育不全や生殖機能不全、 皮膚・毛髪・爪の損傷などが起こります。 人体に対する毒性は低く、人の許容摂取量は10〜15�咫親�程度といわれており、 亜鉛による水質汚染が人間の健康上問題になることはほとんどありません。 ただし、植物や微生物、魚類に対してはかなり強い毒性があるので注意が必要です。 魚類の致死濃度は魚種によっても個体によっても違いますが、 0.1〜50��/lの範囲とされています。 また、亜鉛はカドミウムと化学的な性質がよく似ており、 自然界でも両者は相伴って行動することが多いので、 高濃度の亜鉛が検出された場合は、一応カドミウムによる汚染を疑ってみる必要があります。 人為的供給源は、銅と同様、鉱山排水、金属工場排水、大気粉塵などが主なものですが、 水道水や下水中の亜鉛は、亜鉛メッキ鋼管からの溶出による場合があります。 4)溶解性鉄(dissolved iron:D−Fe) 鉄は、自然界において酸素、ケイ素、アルミニウムについで多く存在する物質で、 流域の地質によっては自然水中に懸濁物としてかなり多量に含まれているので、 水質調査では普通、溶解性のものだけを問題にします。 溶解性鉄は通常2価の鉄イオン(Fe2+)ですが、3価の鉄イオン(Fe3+)や 鉄錯イオン([Fe(CN)6]3−など)として存在することもあります。 溶存酸素の十分存在する水中では、Fe2+はすみやかに酸化されてFe3+となり、 Fe3+は酸性の強い水以外では不溶性の水酸化第二鉄(Fe(OH)3)となって沈澱します。 したがって、通常の地表水では溶解性鉄はきわめて少なく、 鉄分はほとんどが水酸化物および粘土粒子や生物体の成分として懸濁態で存在しています。 しかし、地下水や有機汚濁の進んだ河川、 富栄養湖の底層水など溶存酸素の欠乏しがちな水域や、 工場排水や鉱山排水が流入する水域では、溶解性鉄を含むことが珍しくありません。 また水道水では鉄管からの溶出によって鉄分が入ってくることもあります。 鉄は生物にとって重要な栄養素の一つで、 自然水中にみられるような濃度ではその毒性が問題になることはありません。 しかし、鉄分が多いと水に臭味(カナケ)や色(赤水)をつけたり、 配管内に析出して(スケール:缶石)水の流れを妨げたりするので好ましくありません。 排水基準(10��/l)や飲料水質基準(0.3��/l)は、健康上の理由からではなく、 これらの利水上の問題を考慮して設定されたものです。 工業用水としても、特に製紙業、染色業、電子工業などでは鉄分の多い水は嫌われます。 また、ある種の形態の鉄は富栄養化現象の中で 藻類の発生を促進する働きがあるといわれています。 5)溶解性マンガン(dissolved manganese:D−Mn) マンガンは自然界における挙動が鉄と似ており、鉄と一体にして議論される場合が多く、 鉄と同様の理由で溶解性のものだけが規制されています。 マンガンもまた生体必須元素の一つですが、毒性の点では鉄よりも有害で、 多量に摂取すると神経症状を中心とする慢性中毒を引き起こし、 一時に大量を摂取した場合は危険であるとされています。 ただし、毒性としてはそれほど強いものではなく、 水中のマンガンが人の健康上問題になった例はありません。 マンガンによる障害は、鉄と同様、臭味や着色(black water trouble)、 スケールなどによるもので、水質基準値もやはり 健康被害の面よりも利水面から決められています。 また工業用水としては、マンガンがさまざまな化学反応に 触媒として作用して障害を与えることがあるので、 業種によってはマンガン濃度 0〜0.05��/l以下の水準が要求されることがあります。 (特に写真現像、プラスチック工業、食品工業など) 一般に、自然水中の溶解性マンガンは 0.1��/l以下のオーダーで、 1��/lになると異常値とみなすことができます。 6)総クロム(total chromium:T−Cr) 天然のクロムは主としてクロム鉄鉱(FeO・Cr2O3)として産出します。 クロムは通常+2、+3、+6の酸化数をとりますが、 2価のクロム(Cr(��))は不安定で環境中で 速やかに酸化されて3価のクロム(Cr(��))になります。 また、6価のクロム(Cr(��))も酸性溶液中や 有機物の存在下では容易にCr(��)に還元されます。 Cr(��)は消化管からの吸収率が低く(1%以下)毒性も低いものですが、 Cr(��)やCr(��)とあわせて総クロムとして規制されています。 (クロム(六価)の項参照) 7)フッ素(fluorine:F) 要監視項目参照 8)n−ヘキサン抽出物質(normalhexane extracts) n−ヘキサン(ノルマルヘキサン)という有機溶媒によって 抽出される不揮発性の物質の総称で、水中の油分の指標の一つです。 油分は直接および間接的に魚介類を死亡させるとともに、 魚介類に臭いをつけてその商品価値を失わせます。 そのため、環境基準では海域についてn−ヘキサン抽出物質として 「検出されないこと」(検出下限値 0.5��/l)と定められています。 海域だけでなく陸水域においても、油分、 特に鉱物油は石油臭によって水の価値を損なったり、下水処理場の機能を阻害したりします。 n−ヘキサン抽出物質は、個々の成分は不明ですが、水中に存在するさまざまな 固体、液体、溶解性の物質のうち、n−ヘキサンに可溶性の成分 (動植物性の油脂や石油石炭系の炭化水素など)が抽出されます。 それらの多くは他の水質規制項目(たとえばSS、BOD、CODなど) の成分となるものが多いので、それらとの相関からみることが大切です。 油分の指標としては、他に四塩化炭素抽出物質もあります。 〔参考〕排水中の悪臭物質 悪臭防止法第4条は、悪臭物質の種類ごとに 次の3とおりの規制基準を定めることを規定しています。 [1] 事業場の敷地境界線の地表における大気中の濃度の許容限度 [2] ([1]を基礎として定める)排出口における流量または排出気体中の濃度の許容限度 [3] ([1]を基礎として定める)排出水中の濃度の許容限度 平成6年1月現在で、[1]はアンモニアなど22物質について、 [2]は[1]の22物質中13物質について規制基準が定められています。 [3]については未制定でしたが、平成6年2月の中央環境審議会答申で 次の硫黄系4物質について基準値の算出方法などが答申されました。 これを受けて環境庁は平成6年度中に悪臭防止法施行規則を改正し、 平成7年度からこれら4物質の排水規制が行われる(排水基準が設定される)見込みです。 *硫化水素(Hydrogen sulfide H2S) もっとも簡単な硫黄化合物で、常温では無色、 刺激性の気体で特有の悪臭(腐卵臭)があります。 可燃性で空気中で青色の炎をあげて燃え、二酸化硫黄になります。 水に可溶。硫化水素を吸入すると血中に移行し、 細胞内酵素を不活性化するために急性中毒が起こりますが、 血中で速やかに酸化されて無害で排泄されやすい硫酸塩になるため、 蓄積作用はないと考えられています。 重要な還元剤であり、分析試験、金属の精錬、 各種工業薬品・農薬・医薬品の製造に使用されます。 悪臭としての発生源は、畜産事業場、パルプ製造工場、 し尿処理場、デンプン工場などがあります。 においの閾値(空気中濃度)は0.0005〜0.025ppm、明瞭に感知するのは 0.06ppm、 1〜5ppmで不快臭が強く、20ppm以上では結膜炎や角膜障害を起こし、 700ppm以上では反射性の呼吸中枢麻痺で即死するとされています。 水中濃度のにおいの閾値としては、0.0011��/lという報告があります。 中央環境審議会答申の排水基準は、たとえば住宅地にある 排水量 100l/秒以上の工場・事業所の場合で、0.005��/l以下とされています。 *硫化メチル(methyl sulfide CH3SCH3) 硫化ジメチル(dimethyl sulfide)、メチルチオエーテル(methyl thioether)などともいう。 常温で無色の液体で、腐ったキャベツのような悪臭があります。水に不溶。 悪臭の発生源としては、パルプ製造工場、化製場、し尿処理場などがあります。 *二硫化メチル(methyl disulfide CH3SSCH3) 二硫化ジメチル(dimethyl disulfide)ともいう。 性状、発生源などは硫化メチルとほぼ同様です。 *メチルメルカプタン(methyl mercaptan CH3SH) メタンチオール(methanethiol) チオメチルアルコール(thiomethyl alcohol)などともいう。 腐った玉ねぎのような悪臭をもつ燃焼性の気体で、硫化水素と似た中毒作用があります。 医薬品、殺虫剤、プラスチックなどの有機合成中間体、 反応促進剤、付臭剤などに用いられます。 悪臭としての発生源は、硫化メチルとほぼ同様です。 |