3.健康項目 「平成8年2月 水質調査の基礎知識(近畿地方整備局近畿技術事務所)より抜粋」






  水質汚濁に係る環境基準のうち人の健康の保護に関する環境基準の定められている項目で、
  水質汚濁物質の中でも特に有害性が強いものです。
  平成5年の一部改正(平成5年3月8日 環告第16号)により、
  従来の9項目(最上段の8項目+有機リン(EPNの項p.44参照))から
  大幅に追加されました。
  これに伴って排水基準のうち有害物質に係る排水基準も
  改正(平成5年12月27日総理府令第54号)され、ほぼ同じ項目
  (有機リンが環境基準からは削除されたが排水基準には残されたことを除いて)
  について排水基準が定められています。

  上水道の通常の浄水処理過程では、健康項目に挙げられている重金属類や有機塩素化合物、
  農薬類などを除去することは困難なので、環境基準値は
  水道水質基準とほぼ同程度の厳しい値が設定されています。
  排水基準はおおむね環境基準の十倍の値に設定されていますが、
  これらを含む排水を地下に浸透することは禁止されています。


 1)カドミウム(cadmium:Cd)

  カドミウムは、地殻中の存在量はごくわずかですが、
  亜鉛と共存する形で自然界に広く分布しており、
  特に汚染を受けていない地表水や地下水中にも、
  亜鉛の 1/100〜1/150 程度の量(約 0.1〜0.5μg/l)が含まれているといわれています。

  人体に対する毒性は強く、一度に数グラムを摂取すると
  激しい胃腸炎を起こして短時間で死亡するといわれていますが、
  水質で問題になるのは主に慢性中毒です。
  体内に摂取されたカドミウムの大部分は排泄されますが、
  摂取量が多い場合は腎臓や肝臓に蓄積されて障害を引き起こします。
  公害病として有名なイタイイタイ病は、慢性カドミウム中毒による腎機能障害、
  カルシウム代謝異常に、妊娠、授乳、栄養素としてのカルシウム不足
  などの要因が重なって発症した重症の骨軟化症とされています。

  カドミウムの人為的汚染源は、亜鉛、銅の採掘精錬に伴う鉱山排水や、
  電池製造、電気メッキ、金属加工などの工場排水が主なものです。


 2)全シアン(total cyanide:T−CN

  水中のシアン(CN)は、シアンイオン(CN)、シアン化水素(HCN)、
  金属のシアン化物、金属シアノ錯体、有機シアン化合物などの形で存在します。
  自然水中にはほとんど含まれませんが、メッキ工場や金属精錬所など
  青酸化合物を使用する事業所などの排水の混入によって含まれることがあります。

  毒物の代名詞ともなっている青酸カリ(KCN)に代表されるように、
  シアン化合物は一般に毒性が強く、微量でも水生生物や下水浄化微生物に障害を与えます。
  ただし、金属シアノ錯体の毒性は比較的低く、
  特に鉄シアノ錯体(フェリシアン[Fe(CN)3−、フェロシアン[Fe(CN)4−)は
  ほとんど無害に近いものです。
  シアン化合物の毒性は主にシアンイオンの持つ細胞内呼吸阻害作用によるもので、
  成人の経口致死量はシアン化水素で50〜60咫∪鳥瀬リで200〜300咫
  青酸ソーダ(NaCN)で 200啻宛紊箸い錣譴討い泙后
  問題になるのはもっぱら急性毒性のみで、重金属類のように
  体内に蓄積して慢性中毒を引き起こすことはありません。
  そのため、環境基準は他の健康項目が年間平均値として定められているのに対して、
  全シアンは最高値として定められています。

  なお、水道水質基準の「シアン」はシアンイオン、
  シアン化水素および一部の金属シアノ錯体を対象としており、
  全てのシアンを対象とする環境基準や排水基準とは取扱いが異なります。


 3)(lead:Pb)

  鉛は人類がもっとも古くから用いた金属の一つで、
  金属としてあるいは種々の化合物として用途が広く、
  また職業病としても長い歴史をもっています。

  大量の鉛を摂取すると、腹痛、嘔吐、下痢、
  尿閉などを伴う急性胃腸炎を起こし、時には死亡することもあります。
  ガソリン添加剤などに用いられる有機鉛化合物(四エチル鉛など)は、気化しやすく、
  肺や皮膚からも吸収されて重篤な精神神経症状をおこします。
  しかしこれらの急性中毒が起こるのは特殊なケースで、
  一般にはカドミウムと同様に慢性中毒が問題となります。
  すべての人に安全であるとみなし得る摂取量は明らかではありませんが、
  1日当たりの摂取量が1.0咾鯆兇┐襪般世蕕に排泄量を上回って
  体内蓄積(主に骨)が起こるといわれています。
  慢性鉛中毒の症状としては、食欲不振、頭痛、貧血、
  全身倦怠、便秘、不妊、流産などがあります。

  バクテリアによる有機物の分解は、
  0.1〜0.5/lの鉛によって抑止されるという報告もあります。

  汚染のない河川水中の鉛は 0.01μg/l、海水で 0.03μg/l程度といわれています。

  鉛による水質汚染は、鉱山排水あるいは鉛鉱床を含む地質によるもののほか、
  工場排水(特に鉛精錬、蓄電池、塗料、農薬など)の流入および
  自動車排ガスや工場排煙中の鉛化合物が降下することによって起こります。
  また、水道用鉛管から溶出して水中に入ってくるものも考えられます。

  水質環境基準値は従来、0.1/l以下とされていましたが、
  平成5年3月の改正により0.01/l以下に改められました。
  この値は水道水質基準(0.05/l以下)よりも低い値ですが、これは、
  鉛の蓄積性、魚介類への濃縮性、鉛管からの溶出の可能性
  などを考慮して環境基準の方を低く設定されたものです。
  なお、水道水質基準でも長期的目標値(おおむね10年後)は0.01/l以下とされています。


 4)クロム(六価)または6価クロム(chromium():Cr())

  クロムは地殻中に100/kg程度含まれ、
  重金属類の中では鉄、マンガンについで多い物質です。
  大部分は難溶性の形で存在するので自然水中に含まれることは比較的まれですが、
  河川水で1〜10μg/l、海水で<0.1〜5μg/l程度含まれるとされています。

  水中のクロムは通常3価または6価の形で存在しますが、
  6価のもの(重クロム酸CrO2− やクロム酸CrO2−など)は
  毒性が強いため、有害物質として厳しく規制されています。
  6価クロムの毒性は主にその強い酸化力によるもので、胃腸炎や腎炎、
  皮膚炎、潰瘍、鼻中隔穿孔、肺ガンなどを引き起こします。
  ただし、クロムという元素自身は生物にとって必要な物質で、
  不足しても健康障害が起こります。

  クロムによる汚染源としては、鉱山廃水およびクロムメッキ、
  ステンレス鋼、皮なめし、顔料などの産業廃水などが挙げられますが、
  6価クロムの害は水質汚染だけでなく、大気中の粉塵としても大きな問題となります。


 5)ヒ素(arsenic:As)

  ヒ素の毒性は古くから「岩見銀山ネコイラズ」などとして知られていましたが、
  昭和30年に西日本一帯で発生した森永ヒ素ミルク事件で改めて認識されました。

  元素としての地殻中の存在度は比較的少ない方ですが、
  一般の河川水中の濃度は平均 1.7μg/l(菅原 1967)とされており、
  特に温泉水など火山地帯の地下水の中には
  数十/lの高濃度に含まれている場合があります。
  人為的な汚染源としては、染料、皮革、冶金、製薬、化学、半導体などの工場排水、
  鉱山排水、農薬(除草剤、殺虫剤)などが考えられます。

  やはり水質汚濁で問題になるのは主に慢性中毒で、飲料水の場合、
  0.2〜1.4/l以上のヒ素を含有する水を常用すると、体重減少、
  反復性の下痢と便秘、皮膚の色素沈着や角質化、知覚障害、
  ガンなどの障害が現れるといわれています。

  平成5年3月より、環境基準値が従来の0.05/l以下から0.01/l以下に改正されました。


 6)総水銀(total mercury:T−Hg

  水銀は、その特異な性質(常温でただ一つの液体金属、高い電気伝導度と熱伝導度、
  安定した熱膨張率、多くの金属と合金を形成するなど)によって、
  工業用、農薬用、医薬用など多くの用途に使用されてきました。
  無機水銀と有機水銀に分けられ、無機水銀には金属水銀と1価または2価の水銀化合物が、
  有機水銀にはメチル水銀を始めとするアルキル水銀と、
  フェニル水銀ほかのアリール水銀などがあります。

  水銀もまた生物にとってきわめて有害な物質で、急性的にも慢性的にも中毒が起こります。
  中でもアルキル水銀は、特に蓄積性が高く毒性が強いので、
  別にアルキル水銀単独としても規制されています。
  アリール水銀は、体内で分解されて無機水銀になりやすいので、
  毒性はアルキル水銀ほど強くありませんが、無機水銀よりは有害です。
  一般に無機水銀は、消化管からの吸収率が低く有機水銀に比べて毒性は小さいですが、
  中には塩化第二水銀(昇汞)のように猛毒のものもあります。
  また吸収率が低いといっても摂取量が多いと体内、
  特に腎臓に蓄積して障害を引き起こし、重症になると尿毒症から死に至ります。
  魚介類への蓄積も、アルキル水銀ほどではないにせよ、起こる可能性があり、
  また水域内、特に底質中である種のバクテリアの働きによって
  アルキル水銀に変化することも知られています。
  このため、これらの水銀を一括して「総水銀」として規制されています。

  水銀による水質汚染源としては、反応用触媒として水銀を多量に使用する工場
  (塩化ビニール、アセトアルデヒド、カセイソーダ製造など)
  からの排水が大きなものでしたが、工程の変更や規制によって
  水銀使用量を減らす努力が進められています。
  また、1960年代まではイネのイモチ病予防などに酢酸フェニル水銀剤が多用されましたが、
  現在は水銀を含む農薬は使用が禁止されています。
  しかし医薬品や実験用試薬などとしては現在でも無機水銀が使用されており、
  その廃棄されたものの一部が直接、あるいは大気を通じて水圏に入っています。


 7)アルキル水銀(alkylmercury:R−Hg

  アルキル水銀とは、メチル基(CH-)、エチル基(C-)などの
  アルキル基(C2n+1-)と水銀が結び付いた有機水銀化合物の総称です。

  アルキル水銀は消化管あるいは肺や皮膚から容易に吸収され、諸臓器、
  特に脳に蓄積して知覚障害、運動失調、歩行障害、難聴、言語障害、視野挟窄、
  四肢のマヒなどの中枢神経障害−いわゆる水俣病を引き起こします。

  また、アルキル水銀で特に重要なことは、その吸収されやすく排泄されにくい
  という性質から高度な生物濃縮が起こることで、水中の濃度はわずかであっても
  魚介類の中に高濃度に蓄積されて毒性を発揮する可能性があります。
  たとえば、0.003〜0.0003/lのメチル水銀溶液中で飼育した金魚は
  40日間たっても何の異状もなく生存していたが、その体内には
  メチル水銀が溶液濃度の千倍から三千倍に濃縮蓄積されていたという報告があります。


 8PCB(polychlorinated biphenyl:ポリ塩化ビフェニール)

  PCBは、右図に示すように2つのベンゼン環が結合したビフェニールの水素原子が
  塩素原子で置換された化合物で、塩素数や置換位置の異なったものの混合物です。




  熱的にも化学的にもきわめて安定で、電気絶縁性が良く、
  接着性や伸展性に富んでいるため、トランス、コンデンサー、プラスチック、
  熱媒体、塗料、ノーカーボン紙、その他多くの工業で広く使用されてきました。
  しかし、この工業用資材として理想的な性質は、反面、
  自然界で微生物や光その他の作用によって分解されることがなく、
  長期間にわたって環境を汚染し続けるということを意味します。
  また、親油性で生物体内の脂肪組織に蓄積されやすいため、
  食物連鎖を通じて水中から水生生物への濃縮蓄積性が高く、
  水中濃度の数万〜数十万倍に達することもあり、
  さらに高次の捕食者である人体への蓄積も起こってきました。
  PCBは天然には存在せず、都市工業活動の結果として放出されるため、
  人口密集地ほど汚染が進んでおり、東京湾や大阪湾の魚では脂肪組織から
  10ppmを越すPCBを検出した例が報告されています。

  人体に対する影響は十分には明確にされていませんが、
  亜急性中毒の一例としてカネミ油症があります。
  これは、PCBおよびその誘導体で毒性の強いPCDF(ポリ塩化ジベンゾフラン)
  などで汚染された食用油を摂取することによって生じた中毒症で、
  症状としては色素沈着、吹出物(クロルアクネ)などの皮膚症状、
  肝機能障害、腹痛、食欲不振などの腹部症状、しびれ感などの神経症状があります。

  現在では、PCBは「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化審法)の
  第一種特定化学物質(難分解性で、生物体内に蓄積されやすく、慢性毒性のあるもの)
  に指定されており、(というよりも、化審法はもともとPCBおよびPCBと
  類似の性状をもつ化学物質を規制することを目的として制定された法律です)
  その製造、輸入、使用が事実上禁止されています。

  *コプラナPCB(Coplanar PCB:Co−PCB

   PCBのうち、オルト位(前頁の図の(o)の位置)の塩素が少なく、
   メタ位(m)とパラ位(p)に4個以上の塩素が置換した平面構造を持つものをいいます。
   PCBの中でも特に毒性が強く、PCDFと並んで
   カネミ油症の主原因と考えられています。
   また、米国では五大湖周辺の水鳥の奇形の原因物質として注目されています。

  Co−PCBやPCDFはPCDD(ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン)と
  構造や毒性が類似しているため、これら3種をダイオキシン関連化合物として取扱い、
  総合的に生体影響評価が行われる傾向にあります。


 9)トリクロロエチレンtrichloroethylene:TCE CCl=CHCl)
   トリクレン(Trichlen)ともいう。

  常温常圧で無色透明の水より重い液体で、
  エーテルやクロロホルムに似た芳香臭があります。

  不燃性で油脂の溶解性が高いなど溶剤として優れた特性を持つことから、
  金属機械部品の脱脂洗浄剤などの用途に広く使われてきましたが、
  近年、テトラクロロエチレンや1,1,1-トリクロロエタンなどとともに
  広範囲に地下水を汚染していることが判明して問題となっています。

  蒸気の吸入あるいは経皮的に体内に取り込まれ、
  急性毒性としては目、鼻、のどの刺激や頭痛、麻酔作用などがあり、
  慢性的には肝臓や腎臓への障害のほか、発ガン性も疑われています。
  水質汚濁に関しては、水への溶解度が低く揮発性のため、
  表流水では大気中に揮散して濃度が低下しますが、
  地中では揮散が少なく土壌への吸着性や生物分解性も低いため、
  特に地下水を汚染しやすいといえます。

  そのため、平成元年に化審法の第二種特定化学物質
  (難分解性で、慢性毒性があり、環境汚染により
   人の健康被害が生じる恐れがあると認められるもの)に指定され、
  それとともに有害物質に係る排水基準の項目に加えられました。(基準値:0.3/l以下)
  ほぼ同時に、公共用水域の水質環境目標(0.03/l以下)が示されていましたが、
  平成5年3月より環境基準項目に加えられました。(基準値:0.03/l以下)


 10)テトラクロロエチレン(tetrachloroethylene CCl=CCl2

  パークロロエチレン(perchloroethylene:PCE)あるいは
  パークレン(Perclene)ともいう。

  トリクロロエチレンと並んで広く使用されてきた有機溶剤で、
  ドライクリーニングの洗剤、金属の脱脂洗浄、フロン113の原料、
  メッキ、医薬品、香料、殺虫剤などの用途があります。

  性状、毒性などはトリクロロエチレンとほぼ同様ですが、
  トリクロロエチレンよりも代謝されにくく蓄積されやすいといわれおり、
  やはり化審法の第二種特定化学物質に指定されています。(排水基準:0.1/l以下)

  トリクロロエチレンと同様に
  従来の水質環境目標から環境基準に移行しました。(基準値:0.01/l以下)


 11)四塩化炭素(carbon tetrachloride CCl
   テトラクロロメタン(tetrachloromethane)ともいう。

  常温常圧で無色透明の水より重い液体で、クロロホルムに似た芳香臭があります。
  大気中で安定で、オゾン層破壊の原因物質の一つでもあります。

  かつてはもっともよく用いられた有機溶剤の一つですが、
  毒性(頭痛、精神錯乱、麻酔作用、嘔吐、下痢、肝・腎障害等。発ガン性も疑われる)が
  強いため現在では溶剤としてはあまり使われず、フロンの原料が主な用途となっています。
  ただし、水質分析では四塩化炭素抽出物質の測定などに現在も使用されています。

  トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンと同時に
  化審法の第二種特定化学物質に指定され、暫定指導指針
  (地下浸透の禁止および公共用水域への排水の管理目標値:0.03/l以下など)
  が示されていましたが、平成5年3月より環境基準項目(基準値:0.002/l)に、
  同年12月より排水基準項目(基準値:0.02/l以下)に加えられました。


 12)ジクロロメタン(dichloromethane CHCl

  塩化メチレン(methylene chloride)、二塩化メチレン(methylene dichloride)ともいう。

  常温常圧で無色透明の水より重い液体で、芳香臭があります。
  揮発性ですが、他の揮発性有機塩素化合物に比べると揮発性は低く、
  水中から大気への揮散もあまりありません。

  トリクロロエチレン、フロン113 などの代替物質として、溶剤、
  ウレタン発泡助剤、エアロゾルの噴射剤、冷媒などに使用されています。
  水質分析でも、農薬類の分析の際に抽出溶媒として用いられます。

  急性中毒症状は、麻酔作用(めまい、嘔吐、四肢の知覚異常、昏睡)がありますが、
  肺から吸収されたものは速やかに呼気および尿中に排泄されます。
  発ガン性の疑われる物質であり、公共用水域や地下水において
  比較的広くかつ高いレベルでの検出がみられることから、
  環境基準項目に加えられました。(基準値:0.02/L以下)


  13)1,2-ジクロロエタン(1,2-dichloroethane CHCl-CHCl)

  塩化エチレン(ethylene chloride)、
  二塩化エチレン(ethylene dichloride:EDC)ともいう。

  常温常圧で無色透明の水より重い液体で、甘味臭があります。

  主な用途は塩化ビニルモノマーの製造原料で、
  他に樹脂原料、溶剤、洗浄剤としても使われています。

  中毒症状は四塩化炭素と類似のもので、発ガン性も疑われるため、
  化審法の指定化学物質(蓄積性は有さないものの、難分解性で、慢性毒性の疑いのあるもの)
  に指定されています。また、海洋汚染防止法において引火性の危険物に指定されています。

  公共用水域や地下水において比較的広くかつ高いレベルでの検出がみられることから、
  環境基準項目に加えられました。(基準値:0.004/l以下)


 14)1,1,1-トリクロロエタン(1,1,1-trichloroethane CH-CCl

  メチルクロロホルム(methylchloroform:MC)ともいう

  常温常圧で無色透明の水より重い液体で、芳香臭があります。
  大気中で比較的安定で広域に拡散しやすく、オゾン層破壊の原因物質の一つです。

  塩素系有機溶剤の中では最も毒性の低いもので、
  体内に吸収されても大半が未変化体のまま呼気中に排泄されます。
  中毒症状は高濃度に暴露された場合の軽度の麻酔作用や目の刺激で、
  反復暴露した場合でも臓器などに対する障害はほとんどありません。
  そのため、金属洗浄剤やドライクリーニング用洗剤などとして
  大量に使用されてきましたが、その結果、トリクロロエチレンなどと同様に
  広範囲に地下水を汚染していることが明らかになりました。
  そこで、環境庁通知(昭和59年環水管第127号)による暫定指導指針で
  管理目標値(地下浸透:0.3/l以下、公共用水域への排水:3/l以下)
  を定めて指導されてきましたが、平成5年3月より環境基準項目に加えられました。

  なお、環境基準は健康影響の観点から1/l以下とされていますが、
  水道水質基準は臭味発生防止の観点から 0.3/l以下とより厳しく設定されており、
  水道水源となっている水域ではこの点に留意する必要があります。


 15)1,1,2-トリクロロエタン(1,1,2-trichloroethane CHCl-CHCl)

   三塩化ビニル(vinyl trichloride)ともいう。

  常温常圧で無色透明の水より重い液体で、芳香臭があります。
  揮発性が高く、水中から大気に蒸散する傾向があります。
  溶剤としての用途の他に、1,1-ジクロロエチレンの原料、
  粘着剤、ラッカー、テフロンチューブの製造などに利用されています。

  毒性は中枢神経抑制と肝臓障害で、
  肺からの吸収の他に経皮吸収にも注意を有するとされています。
  動物実験では発ガン性を疑わせるデータもあります。

  公共用水域や地下水において比較的高いレベルでの検出がみられることから、
  環境基準項目に加えられました。(基準値:0.006/l以下)


 16)1,1-ジクロロエチレン(1,1-dichloroethylene CH=CCl

  塩化ビニリデン(vinylidene chloride)、
  二塩化ビニリデン(vinylidene dichloride)ともいう。

  常温常圧で無色ないし淡黄色の透明な水より重い液体で、芳香臭があります。
  空気や酸素の存在で過酸化物をつくり、爆発性を持ちます。
  用途はほとんどが塩化ビニリデン樹脂の原料です。

  生体影響は、急性症状としては麻酔作用があり、
  反復暴露では肝臓や腎臓に障害が認められ、
  動物実験では発ガン性を認めた報告もあります。

  公共用水域や地下水において比較的広くかつ高いレベルで検出されていることから、
  環境基準項目に加えられました。(基準値:0.02/l以下)

  なお、本物質は環境中でトリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、
  1,1,1-トリクロロエタンなどの分解過程で二次的に生成するといわれており、
  その挙動について知見を集積していく必要があります。


 17)シス-1,2-ジクロロエチレン(cis-1,2-dichloroethylene CHCl=CHCl)

  1,2-ジクロロエチレンは、二塩化アセチレン(acetylene dichloride)ともいわれ、
  シス体とトランス体があります。どちらも常温常圧で無色透明の水より重い液体で、
  わずかに刺激臭をもち、引火性、可燃性があります。

  溶剤、染料抽出剤、香水・ラッカー・熱可塑性樹脂の製造、
  有機合成原料などの用途がありますが、わが国における生産実績は不明です。



  急性症状は中枢神経の抑制作用が主で、肝・腎の障害は少なく、
  肝障害作用は1,1-ジクロロエチレンより弱いとされています。

  公共用水域や地下水において比較的広くかつ高いレベルで検出されていることから、
  環境基準項目に加えられました。(基準値:0.04/l以下)
  トランス体は要監視項目に取り上げられています。
  本物質もまた、トリクロロエチレンなどから環境中で生成するといわれています。


 18)1,3-ジクロロプロペン(1,3-dichloropropene:D−D CHCl-CH=CHCl)

  1,3-ジクロロプロピレン(1,3-dichloropropylene)ともいう。

  1,2-ジクロロエチレンと同様にシス体とトランス体があり、
  どちらも常温常圧で水より重い淡黄色の液体で、可燃性、金属腐食性があります。
  強い刺激作用があり、動物実験では肝および腎障害が認められるほか、
  発ガン性の可能性も認められています。
  人畜毒性:普通物。魚毒性:B類。

  線虫駆除用の土壌燻蒸剤(D−D剤)として畑地などで使用されています。
  ちなみに、D−Dとは本来、1,3-ジクロロプロペンと1,2-ジクロロプロパン
  混合物の農薬としての通称ですが、殺線虫効果の主体である
  1,3-ジクロロプロペンの意味でも使われています。

  公共用水域において比較的高いレベルでの検出がみられることから、
  環境基準項目に加えられました。(基準値:0.002/l以下)


 19)チウラム(thiram tetramethylthiramdisulfide:TMTD)チラムともいう。

  化学名:bis(dimethylthiocarbamoyl)disulfide

  商品名:チウラミン、ポマゾールなど

  人畜毒性:普通物。魚毒性:C類。ADI:0.0023mg/kg/day(農薬取締法の登録時の評価)。

  ジチオカーバメート系(炭素、窒素、水素、硫黄からなる
  チオカーバメート結合を2個もつ物質系)の殺菌剤。
  元来、ゴムの加硫促進剤として開発された薬剤ですが、
  強い殺菌力を有することから、種子消毒、茎葉散布、
  土壌処理用として、農地やゴルフ場で使用されています。

  人体の中毒症状としては、咽頭痛、咳、痰、皮膚の発疹・痛痒感、
  結膜炎、腎障害などがあります。

  ゴルフ場の農薬使用が社会問題化したのを契機に、
  ゴルフ場で使用される農薬による水質汚濁の防止に係る暫定指導指針
  (平成2年5月24日環水土第77号)および<ゴルフ場使用農薬に係る
  水道水の暫定水質目標(平成2年5月31日衛水第152号)により、
  指針値 0.06/lおよび目標値 0.006/lが示され、
  汚染状況が調査されてきましたが、
  公共用水域において比較的高いレベルでの検出がみられることから、
  環境基準項目に加えられました。(基準値:0.006/l以下)


 20)シマジン(simazine:CAT

  化学名:2-chloro-4,6-bis(ethylamino)-1,3,5-triazine

  人畜毒性:普通物。魚毒性:A類。
  ADI:0.0013mg/kg/day(農薬取締法の登録の際の評価)。

  トリアジン系(炭素と窒素からなるトリアジン環をもつ物質系)の除草剤で、
  畑地やゴルフ場で土壌処理剤として広く使用されていました。

  急性毒性はごく低い農薬ですが、変異原性や発ガン性の疑いを指摘する意見もあります。
  環境中で比較的安定で、土壌中でCATが 75〜100%分解するのに
  12ヶ月以上かかるという報告があります。

  チウラムと同様に、ゴルフ場使用農薬について暫定指導指針値(0.03/l)および
  水道水の暫定水質目標 (0.003/l)が示され、汚染状況が調査されてきましたが、
  公共用水域において比較的広くかつ高いレベルで 検出されていることから、
  環境基準項目に加えられました。(基準値:0.003/l以下)

  さらに、平成6年4月には農薬取締法の水質汚濁性農薬に指定され(7月施行予定)、
  使用に際しては事前に散布区域、目的、量、時期などを明記して都道府県に申請し、
  許可を受けることが必要になりました。

  *水質汚濁性農薬

  相当広範な地域においてまとまって使用されている
  (または近くその状態に達する見込みが確実な)農薬であって、
  気象その他一定の自然的条件のもとでは、

   [1]水産動植物の著しい被害が生じるおそれがある、または、

   [2]公共用水域の水質の汚濁が生じその水の利用が原因となって
     人畜に被害を生ずるおそれがある

  ものをいい、政府が政令によって指定します。
  その使用について、都道府県知事は必要な範囲内で使用地域を限り、
  事前許可制をとることになっています。
  従来、[1]の要件からテロドリン、エンドリン、PCP
  ベンゾエピン、ロテノンの5種が指定されていましたが、
  [2]の要件による指定は上記のシマジンが初めてです。


  21)チオベンカルブ(thiobencarb) ベンチオカーブ(benthiocarb)ともいう。

  化学名:S-4-chlorobenzyldiethylthiocarbamate

  商品名:サターンなど

  人畜毒性:普通物。魚毒性:B類。

  チオカーバメート系の除草剤で、水田、畑地で
  茎葉兼土壌処理剤として広く使用されています。

  水田の初期除草剤として使用されることから、
  河川水からppbのオーダー(最大20ppb)で検出された例があります。
  また魚介類からも、フナやアユで10−1ppm、
  シジミからは最大9.7ppmの検出例があります。
  塩素によって分解されやすいため水道水から検出された例はありませんが、
  薬害防止の目的で製剤中に添加されている成分(BCS)が、
  大阪府枚方市の水道水中から59ppt検出されたことがあります。

  公共用水域において比較的広くかつ高いレベルでの検出がみられることから、
  環境基準項目に加えられました。(基準値:0.02/l以下)


  22)ベンゼン(benzene CH) ベンゾール(benzol)ともいう。

  常温常圧で無色透明の水より軽い液体で、特有の芳香があります。

  かつては典型的な有機溶剤として使用されましたが、
  その用途はほとんど他の溶剤によって代替され、現在はもっぱら工業用原料
  (染料、溶剤、合成ゴム、合成皮革など多様な製品の合成原料)として使用されています。
  最終溶剤製品中にはほとんど検出されることはありませんが、
  ガソリン中には1%前後存在します。自動車排ガスからも検出され、
  一般大気中からも数十ppbのレベルで検出されています。

  生体影響としては、短時間の高濃度暴露では
  有機溶剤一般にみられるような麻酔作用を示しますが、
  注目すべき毒性は反復暴露による骨髄の造血機能障害で、
  かつて溶剤として汎用されていた時代には、
  死亡例を含むベンゼン中毒が多数報告されています。
  また、発ガン性も確認されています。

  このように有害性が明らかな物質であり、
  公共用水域や地下水において比較的広く検出されていることから、
  環境基準項目に加えられました。(基準値:0.01/l以下)


 23)セレン(selenium:Se)

  セレンは地球上に微量ながら広く存在し、
  河川水中には0.02〜0.63ppb程度含まれるとされています。
  硫黄、硫化物とともに産出することが多く、光電池、整流器、半導体、塗料、
  色ガラス、窯業、殺虫剤、コピー感光体、触媒などさまざまな用途に広く利用されています。

  セレンは生体必須元素の一つですが、重要な毒性金属でもあり、その毒性は古くから、
  地質中にセレンを多量に含む地域において牧草を通じて過剰のセレンを摂取した家畜に
  暈倒病(blind stagger)やアルカリ病(alkali disease)が発生することで知られています。
  人体に対してはヒ素と類似の毒性を示し、慢性中毒症状としては顔面蒼白、
  呼気ニンニク臭、貧血、皮膚・胃腸障害などがあります。
  わが国でも、四国でセレン精錬工場周辺の植物や土壌が汚染され、
  住民に被害が出た例があります。

  従来から、厚生省通知(昭和53年環水第91号)による水道水に関する
  指導基準(0.01/l以下)が定められていましたが、有害性が明かな物質であり、
  公共用水域や地下水において比較的広くかつ高いレベルで検出されていることから、
  環境基準項目に加えられました。(基準値:0.01/l以下)


「平成8年2月 水質調査の基礎知識(近畿地方整備局近畿技術事務所)より抜粋」